第三夜。毎夜つけていた記録には、天使たちのシーンが良かった、とある。
天使たちのシーンはオリジナルの録音も良かったけれど、ライブでも良い時が多い。「我ら、時」に入っている二〇一〇年のNHK二日目のは、バンド全員すさまじかったと思う。
オペラシティではモノローグ「Believe」に続けて演奏した。
"I Believe"「俺は信じる」と顔に書いて、九回裏の攻撃にのぞむ人のように。
というやつ。ユーモアが微妙かもしれないので説明すると、顔に「俺は信じる」と書くのは、結構かっこ悪い。あるいは、厚化粧のおばあさんが早朝の繁華街で、自分のスナックの繁盛だか娘の結婚だかを願って、背中を丸めてお稲荷さんに祈っているのは、シニカルな視点で見れば、かっこ悪いだろう。
しかし本当は、全然かっこ悪くないのだ。一瞬かっこ悪く見えて、後(のち)に、謝りたくなるほどかっこいい。そしてそれこそが、かっこいいの定義だと思う人は多いはず。
「天使」は、九〇年代のライブではナーゴだけがソロを二周吹く曲だった。そのナーゴがとても落ち着いた声とテンポでオープニングの朗読をしてくれて、最後はトランペット入りのドアノックをやった。
日曜日だったので遠来の人が多くて、とても温かな客席だった。北のほうから来た人も多かったのかな。どうしてもどうしても鳴り止まない拍手の中で、最後にもう一度出て、演奏者みんなで、心から頭を下げた。そして上手から影絵板の裏へ抜けて、満面の笑みを浮かべたシャドウ・ギャングや照明陣と手をぶつけあった。